フローチャート在宅医療漢方薬
選ばれるクリニックになるために!

土倉潤一郎(土倉内科循環器クリニック院長 漢方専門医・在宅専門医):著
新見正則(オックスフォード大学医学博士、だいなリハビリクリニック、新見正則医院院長):著

2024年5月28日 B6変型判 176頁 2色刷
定価(本体価格3,300円+税)消費税10%込(3,630円)
ISBN 9784880029030

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内容の説明

頼られる医師に! 選ばれるクリニックになるために!

在宅医療の患者さんのあれこれに、漢方薬が役立ちます。患者さんから漢方を飲んでみたいといわれたとき、対応できる医師でいたい。そんな医師のための登竜門として、漢方ビギナーが最初の成功体験をしていただき、漢方の魅力に気づいていただけることをめざして企画された1冊。

はじめに

 在宅医療には医師が行う訪問診療と往診,看護師による訪問看護,作業療法士・理学療法士・言語聴覚士による訪問リハビリ,薬剤師による訪問服薬指導などが含まれます.在宅医療を利用して自宅で闘病されている患者さんをサポートするために役に立つ保険適用漢方薬をわかりやすく解説し,そして利用できる書籍になりました.
 僕はリハビリクリニックの産業医もやっています.そのリハビリクリニックは僕の大学時代の同級生である院長が黎明期から訪問診療を積極的に行っています.産業医業務の傍ら,院長の在宅診療のお手伝いなども行っています.
 そして僕も本日,前期高齢者になりました.高齢者(65歳以上)の人数は2042年にピークを迎えると予想されています.4,000万人弱が高齢者になります.そして毎年150万人前後が亡くなっています.僕が生まれた1959年頃までは自宅で死を迎える人が大半でした.1961年に国民皆保険制度が始まり,徐々に病院で最期を迎える人が増え,最近は8割近い方が病院で亡くなっています.2042年以降は高齢者数が減少に転じると予想されているため,病床を増やして病院で看取るよりも自宅で看取るほうがその後の対応が柔軟に可能だという医療政策的な観点から在宅医療は歓迎されたと思っています.
 しかし,ゼロから始まった在宅医療のスタートです.やっと緒に就いたと思っています.ですからいろいろな在宅医療があります.そしていろいろな専門領域の医師が在宅医療に携わっています.いろいろな在宅医療があるなら,そこで漢方薬が活躍する機会もあるだろうと僕は思います.そして漢方薬が本当に役立つなら,多くの医師に浸透していくでしょう.
 今回のフローチャートは,麻生飯塚病院で研鑽を積み,「在宅医療で一番漢方薬を使っている」と自負する土倉潤一郎先生にフローチャートを担当していただきました.在宅医療で漢方薬は相当役に立つという実体験に基づいての執筆です.漢方薬の有用性を熱く語っています.是非とも在宅医療の実臨床での魅力を堪能してください.
 僕は母を看取った経験とリハビリクリニックでの在宅診療を垣間見ている立場で執筆しました.特に,僕はできるだけフェアな立ち位置で,冷めた目線で執筆しています.そんな著者2人の漢方薬に対する熱量の差を感じながら,みなさんなりの在宅医療の立ち位置で漢方薬を使ってください.
 漢方薬は臨床試験を経ずに経験的な有効性から保険適用されました.しかし,臨床試験がなくても上手に使えば有効です.ここでいう「上手に」に古典の読破や漢方診療は実は含まれません.実際に患者さんを診て,困った時に使うことを繰り返すと漢方薬は自然と「上手に」使えるようになるのです.みなさんなりの「上手に」漢方薬を使うヒントに本書がなることを願っています.
 漢方薬は必ず役に立ちますよ.それぞれの立場での在宅医療に!

2024年2月24日

新見 正則

あとがき

患者さん・家族の希望に応える.その1つに漢方がある
 「どうですかー?」 私が患者さんにお会いした時,まずこの言葉から始めるようにしています.「体調はどうですか?」でも「この前の痛みはどうなりました?」でもありません.なるべくオープンな質問で,今,患者さんが一番思っていること,素の第一声を聞きたいのです.意外と体の調子ではないこともありますので,その第一声を中心に,その他の必要な情報も聞いていきます.
 在宅医療は患者さん・家族の生活をサポートする,支える医療です.病院の入院とは異なり,主役である患者さんのホームに医療者がお邪魔する逆の立場になります.医療が土足で自宅に上がってはいけませんし,良かれと思って本人のペースより先に行ってしまうことも不具合が生じる原因になります.例えば,褥瘡の患者さんに対して褥瘡予防マットへ変更することは多いと思いますが,「寝心地が悪い.腰も痛くなったので元の敷布団に戻したい」と不服があった場合,どうされますか? 入院中であれば治療が最優先になるため,その必要性を説明して褥瘡予防マットを使い続けると思いますが,在宅医療では患者さんの思いを優先しながら方針を決めていきます.病院と同じような治療最優先だと自宅にいる意味が薄れますので,その必要性を説明しても本人が希望しなければ,それ以外の方法でベターを目指すのが在宅医療のプロだと思っています.
 基本は患者さん・家族の思いに寄り添うことが大切で,困った症状を聞いて,その解決方法に漢方薬が役立ちそうな場合に漢方薬を提案し,同意が得られて初めて処方します.西洋薬では適応がない症状や西洋薬では効果が乏しい症状にも薬剤という形で希望の光を照らすことができるのが漢方薬の魅力だと思います.
 私は開業医の父の背中を見て医師になりたいと思い,大学生の頃から「良い開業医になるためにはどうしたらよいか?」を常に追求し,進路を自分で決めていました.循環器医として勤務していた時,「漢方薬を使いこなせるようになればもっと患者さんを治せる」と実感し,医師8年目で麻生飯塚病院の漢方診療科の門をたたきました.そこで7年間,漢方を勉強させて頂き,かけがえのない貴重な時間を過ごしました.また,連携している松口循環器科内科医院で在宅医療の経験もさせて頂きました.その後,開業してからは循環器×漢方×在宅の3本柱にすべて全力で力を注いでおり,現在では在宅患者150人前後で,1年間に80人ほどのお看取りをさせて頂いております.常勤医1人で1日70〜80人の外来もしているため,かなりハードでありますが,とてもやり甲斐を感じて日々を過ごしています.
 在宅医療で漢方診療を行うと,外来とは異なる戸惑いを感じるようになりました.在宅医療の患者さんは通院困難者というだけで漢方薬を希望している集団ではないこと,嚥下状態や家族の思いにも処方が左右されること,加齢性や難治性の症状も多く漢方薬の反応が乏しいこと,同じ高齢者でも甘草による偽アルドステロン症の頻度が外来よりも多いことなどを実感しました.すなわち,外来と比較すると在宅医療は漢方薬を処方しづらい環境で,漢方薬の出番も少ない印象でした.
 しかし,そのような環境においても,漢方薬でしか治らない,あるいは漢方薬が西洋薬を上回る分野が確かにありました.具体的には,難治性の便秘に使用する麻子仁丸の存在が最も大きいと感じています.在宅医療では,意外と西洋薬の下剤だけでは十分に便が出ないことが多く,麻子仁丸が著効しやすいのです.私は在宅患者さんの約半数に漢方薬を処方していますが,その中で麻子仁丸は約3割を占めており,とても助かっています.
 今回,ご縁があり,『フローチャート在宅医療漢方薬』を執筆させて頂くことになりました.私の漢方に対する思いは「少しでも多くの患者さんが楽になるために,なるべく医療者に漢方の良さや正しい使い方を知ってもらいたい」です.私の漢方医としての役割は漢方初学者の立ち上がりの部分で,漢方初学者が理解してとりあえずの処方ができ,早期に成功体験できるところまでをイメージしております.この書籍では私のこれまでの経験から抽出したエッセンスやコツを初学者にもわかりやすくお伝えしたつもりです.麻生飯塚病院で漢方を勉強させて頂きましたが,今ではかなり自己流に変化しているため,内容は「土倉漢方」になっております.また,本シリーズでは漢方初学者対象のため鑑別処方は最小限にして,漢方的な表現は省く方針となっていることもご理解して頂ければ幸いです.
 最後に,出版にあたりご指導して頂きました新見正則先生,中山今日子先生,新興医学出版社社長の林峰子様,編集者の皆様に感謝を申し上げます.

2024年1月

土倉内科循環器クリニック
土倉潤一郎

おもな目次

はじめに 巻頭
本書の使い方 巻頭

漢方薬の基本 新見正則
西洋医のためのモダン・カンポウ 14
漢方薬の副作用 15

在宅医療もいろいろ,漢方もいろいろ 新見正則
看取った母と漢方薬 22
在宅医療での漢方薬の魅力 24
漢方上達のために 32
どんな在宅医療の症状にも 34
在宅医療漢方薬早見表(15分類) 36

フローチャート在宅医療漢方薬 土倉潤一郎
呼吸器
 風邪のひき始め 40
 数日以内の咳嗽 42
 乾性咳嗽が数日続いたら 43
 湿性咳嗽 44
 痰が出る 45
 痰が絡む 46
 誤嚥性肺炎予防 48
 心因性の呼吸困難感 49
 気管支拡張症 51
消化器
 高齢者の食欲不振 52
 非高齢者の食欲不振 54
 軽度の便秘(西洋薬が合わない) 56
 中等度以上の便秘 59
 下痢 60
 繰り返す胃痛 62
 繰り返す腹痛 64
 腹部膨満感 66
 腸閉塞 68
整形外科
 腰痛 70
 膝関節痛 72
 こむら返り 74
 上肢しびれ 76
 下肢しびれ 78
泌尿器
 繰り返す尿路感染症 80
 繰り返す血尿 82
 夜間頻尿 83
 尿路不定愁訴 85
耳鼻咽喉科
 咽頭痛(風邪) 86
 水様性の鼻汁 88
 粘稠性・黄色の鼻汁 90
 繰り返す副鼻腔炎 91
 鼻閉 92
 耳鳴り 93
 口腔内乾燥 95
神経内科
 繰り返す頭痛 96
 頭蓋内疾患のない方のめまい 98
 頭蓋内疾患(慢性期)のめまい 100
 物忘れ 101
 認知症の周辺症状 102
精神科
 怒り・興奮 104
 うつっぽい 105
 不眠 106
皮膚科
 皮脂欠乏性皮膚炎 107
 しもやけ 108
 帯状疱疹後神経痛 109
 蜂窩織炎 110
 褥瘡 111
循環器
 起立性低血圧 112
 動悸 113
 胸痛(心臓神経症) 114
 心不全 116
がん
 がん患者の倦怠感 118
 がん患者の食欲不振 119
小児科
 小児の水様性鼻汁 121
 小児の繰り返す副鼻腔炎 122
 小児の咳嗽 124
 小児の喀痰 125
 小児の繰り返す微熱 126
 小児の冷え 127
 小児の浮腫 128
 小児の便秘 129
 小児の不眠 130
 小児のかんしゃく・イライラ 131
医療処置
 胃瘻・気管切開で白色痰 132
 胃瘻・気管切開で黄色痰 134
 胃瘻・気管切開で痰が取れにくい 136
 胃瘻・気管切開の誤嚥性肺炎予防 138
 胃瘻患者の経管栄養逆流 140
 尿道カテーテル留置中の尿路感染症・閉塞の予防 142
 酸素吸入中の呼吸困難感 144
その他
 冷え 148
 倦怠感 150
 フレイル 152
 非高齢者の下腿浮腫 153
 高齢者の下腿浮腫 154
 全身浮腫 156
介護者
 介護者の疲れ 157
 介護者の不眠 158
 介護者のイライラ 160

結局何を使えばいいの? 161
あとがき 163

参考文献 166
索引 170

コラム 土倉潤一郎
在宅で漢方薬を上手に使うコツ 50
在宅生活を支える漢方薬 58
おまけ:漢方医あるある⑩ 94
おまけ:在宅医あるある⑩ 146
意外と漢方薬の出番が多い
 胃瘻・気管切開の患者さん 147

コラム特別寄稿  中山今日子
在宅服薬指導 84
在宅現場で薬剤師は必要か? 159

コラム  新見正則
がんに漢方薬は効くの? 120

※本書で記載されているエキス製剤の番号は株式会社ツムラの製品番号に準じています.番号や用法・用量は,販売会社により異なる場合がございますので,必ずご確認ください.
※本書は基本的に保険適用の漢方薬を記載しています.
※本書では使いやすいようにあえて一般名と商品名を統一していません.