脳画像でみる精神疾患
山内俊雄(埼玉医科大学名誉学長):監修  
松田博史(埼玉医科大学教授):編集
2013年発行 B5判 248頁
定価(本体価格6,800円+税)
ISBN9784880027340

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内容の説明▼

脳画像所見をどう理解し、解釈すべきか
 現代精神医学では、脳の器質的変化が容易に明らかになるだけでなく、機能性の異常をも明らかにしうる脳機能イメージングが盛んになっている。
 そこで本書では、どんな原理で行われる検査か?得られた所見にどんな意味があるのか?検査によってわかることは何か?どのようなときに何を目的にしてその検査をするか?という実際上の問いに答えるべく、記載されている。最先端の脳画像診断をわかりやすく学ぶ1冊。

本書のねらい

 1970年代の後半,CTが臨床に導入されたときには,これで脳の中のことはすべてわかってしまうのではないか,とさえ思ったことを覚えている.それまで,頭蓋の単純撮影フィルムで脳のなかを推察し,せめて気脳写で脳室の様子をうかがい,血管撮影で脳の器質的傷害を捉えていたのに比べると,侵襲も少なく,脳のなかの様子を明瞭に描き出す,脳のCT像に強い衝撃を受けたのであった.
 しかし,このように強いインパクトを持って登場したCTにも限界があることがしだいに明らかになってきた.そしてCTの限界を克服するかのように,その後さまざまな画像検査法が開発され,実用化されてきた.その結果,脳の形態変化を捉えるだけでなく,脳の機能変化まで明らかにすることのできるイメージング法が次々と開発されてきている.
 これまでの精神疾患の診断は,もっぱら行動観察や面接による精神内界の把握によって行われ,精神症状の背景にある病態を捉えるために,血液検査や髄液検査,脳波,神経学的検査などの身体的な検索が補助的検査として重要視されてきたのが実情である.
 ところが,画像検査が導入されてきた結果,精神科領域においても脳の器質的変化が容易に明らかにされるようになったばかりでなく,機能性の異常をも明らかにしうる"脳機能イメージング"が盛んに行われるようになってきた.
 このように,精神疾患をめぐる脳形態イメージングならびに脳機能イメージングが多彩な形で,臨床や研究の場に登場するようになった現在,脳画像所見をどう理解し,解釈すべきかが大きな課題となる.
 そこで本書では,それぞれの検査法が「どのような原理で行われる検査か?」「得られた所見にどのような意味があるのか」「検査によってわかることはなにか」「どのようなときに何を目的にしてその検査をするべきか」という問いに答えるべく,それぞれの項目について,原理を語り,検査の目的を述べ,最後に何がわかるかを記述してもらうことにした.
 当時,埼玉医科大学教授として身近にいた松田博史先生に相談をし,松田先生から各領野の専門家を推薦してもらい,執筆をお願いした.その結果,精神医学の領域にとどまらない,広い範囲からの執筆者によって,精神医療と脳画像についての成書ができたことは喜ばしいことである.本書が,精神医学・医療のさらなる発展の礎になれば幸いである.
 平成25年4月
 山内俊雄 

おもな目次▼

Ⅰ.脳画像とは
 脳形態イメージング
 脳機能イメージング
 脳機能・形態統合イメージング

Ⅱ.それぞれの画像検査法と臨床応用
 1.CT
  構成
  検査によってわかること
 2.MRI
  特徴
  原理
  安全性
 3.fMRI(BOLD)
  原理
  検査によってわかること
  どのようなときに,何を目的にしてその検査をするか
  まとめ
 4.fMRI(ASL)
  原理
  検査によってわかること
  どのようなときに,何を目的にしてその検査をするか
 5.PET
  原理
  トレーサの分布によってわかること
  どのようなときに,何を目的にしてその検査をするか
 6.SPECT
  原理
  検査によってわかること
  どのようなときに,何を目的にしてその検査をするか
 7.NIRS
  NIRSの原理と得られるデータ
  精神疾患におけるNIRS検査
  精神疾患のNIRS所見
  まとめ―精神疾患におけるNIRSの意義
 8.EEG(誘発電位,脳電図を含む)
  原理
  検査によってわかること
  どのようなときに,何を目的にしてその検査をするか
  誘発電位と事象関連電位
  まとめ
 9.MEG(脳磁図)
  原理
  特性
  どのようなときに,何を目的にしてその検査をするか
 10.神経伝達物質受容体と画像
  原理
  検査によってわかること
  どのようなときに,何を目的にしてその検査をするか

Ⅲ.精神神経疾患における脳画像解析
 画像解析の一連の流れ
 SPMとは
 SPMでの画像解析の実際
 まとめ

Ⅳ.精神神経疾患と脳画像
 1.統合失調症
  統合失調症のMRI研究
  統合失調症のPET研究
  まとめ
 2.気分障害
  形態画像(structural images)
  機能画像(functional images)
  PETを用いた神経伝達機能
  まとめ
 3.神経症性障害,人格・行動の障害など
  A 強迫性障害
    脳形態画像
    脳機能画像
    画像研究から得られたOCDの脳病態仮説
    OCD-loop仮説
    OCD multi-dimensional model
    まとめ
  B 不安・パニック障害
    パニック障害
    恐怖条件づけモデルと解剖学的仮説
    パニック障害の解剖学的脳画像
    パニック障害の機能的脳画像・PET研究
    パニック障害のNIRS研究
    まとめ
  C PTSD
    PTSDの脳画像研究
    PTSDの脳病態仮説
    PTSDの病因仮説
    まとめ
  D 反社会性人格障害
    APD患者,および高サイコパス傾向者の扁桃体の器質的,機能的特異性
    APD患者,および高サイコパス傾向者の前頭前皮質の器質的,機能的特異性
    まとめ
 4.小児期・青年期の行動障害,発達障害など
  A 自閉症スペクトラム障害
    脳の非定型発達
    脳形態異常の成因
    対人交渉の障害の脳神経基盤
    男女差と対人交渉の障害
  B ADHD
    注意欠陥多動性障害
    脳構造上の変化
    脳機能上の変化
    脳における構造的・機能的連絡の変化
    まとめ
  C 摂食障害
    摂食障害の臨床像
    脳の形態学的研究
    神経伝達物質受容体研究
    脳機能画像研究
    まとめ
 5.認知症
  MRI
  グルコース代謝PET,脳血流SPECT
  [123Ⅰ]MIBG心筋シンチグラフィー
  アミロイドイメージング
  神経伝達物質
  まとめ
 6.てんかん
  てんかんのMRI
  てんかんの核医学診断
  てんかんの画像診断のナビゲーション手術への利用
  まとめ
 7.器質性精神障害
  前脳基底部性健忘症
  びまん性軸索損傷
  脳炎
  代謝性,中毒性疾患

 索引