症候学から見極める認知症

池田 学(大阪大学精神医学教室 教授):編著

2024年1月5日発行 B5判 224頁 2色刷
定価(本体価格5,600円+税)消費税10%込(6,160円)
ISBN 9784880021270

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内容の説明

いまこそ、症候学!

疾患修飾薬が承認され、認知症診療が劇的に変わろうとしている。この流れのなかで認知症の薬物療法、非薬物療法は、より早期からの介入が求められることとなった。これまで以上の精微な症候学の知識と最新バイオマーカーを組み合わせた正確な診断が求められている。バイオマーカーを適確に用いるためにも、症候学の知識は欠かすことができない。また、症候学は妄想や攻撃性といった派手な症候の裏に隠された本人の思いや苦悩を読み解く鍵となる。診断されたあとも適切なケアを継続していくうえで欠かせないものである。

改訂にあたって

 本書の前身である「日常診療に必要な認知症症候学」(以下,前書)が出版されたのは2014年である。それから9年半の間に,認知症の当事者や介護者,さらには医療の専門職である我々も想像だにしなかった感染症蔓延下での診療や介護を経験することになった。そして,2023年6月には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立し,8月にはアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)に対する疾患修飾薬レカネマブが本邦で初めて承認された。2000年前後に初めての抗認知症薬としてドネペジルが上市され,介護保険制度が開始された時以来の,大きな変革期が認知症診療に訪れようとしていることは間違いなさそうである。
 前書が出版される直前に前任地の熊本大学から参加した2012年の全国認知症有病率調査では,認知症者は462万人,認知症の前駆段階を高頻度に含んでいる軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)は400万人であったが,この調査に基づく2023年の認知症者の推計値は600万人以上,MCIは500万人にのぼる。両者を合わせると,東北6県に茨城県を加えた全人口に相当する。認知症の半数以上を占めるADによる本邦の医療や介護のコストは年間7.4兆円,介護者のインフォーマルな介護を含めると12.6兆円にのぼることが明らかになっている。この点だけを取り上げても,的確な認知症施策と現状に即した認知症医療はわが国にとっての喫緊の課題であることは明らかである。
 この9年半で,早期診断の必要性がますます高まり,MCIの段階から背景疾患の診断が求められ,薬物療法も非薬物的介入もこのような早期の段階からの導入が検討されるようになってきている。したがって,日常の認知症診療においても,より精緻な症候学と神経画像を中心とする最新のバイオマーカーを組み合わせた正確な診断や治療効果の判定が求められるようになってきた。例えば,2017年に改訂されたレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)の診断基準には,幻視やパーキンソニズムなどの中核的特徴とほぼ同等に,大脳基底核でのドパミントランスポーターの取り込み低下などの指標的バイオマーカーが位置付けられた。さらに,研究用ではあるが,2020年にはprodromal DLBの診断基準も出版された。
 そこで,前書から引き続いて執筆をお願いした先生方には大幅な改訂をお願いし,さらに多くの先生方を新たにお招きして最新の知見を盛り込んでいただくとともに,認知症診療に関連するトピックスを,コラムとしてご執筆いただいた。
 本書が,認知症診療の新時代に,認知症者とその介護者を支える医療専門職の皆様の臨床に貢献できるならば幸甚である。また,前書に続いて,辛抱強く励まし続けてくださった新興医学出版社の岡崎真子さん,醍醐蕗子さんに深謝したい。

2023年初秋 大阪にて

池田 学

おもな目次

第Ⅰ章  総論

1 認知症診療における症候学の重要性  森 悦朗 14
  認知症診療における症候学の役割 14
  病歴 15
  神経症候 15
  神経心理症候 15
  認知症の行動・心理症状(BPSD) 17

2 神経心理学的検査と症候学  今村 徹 23
  MMSEの症候学的ポイントと有用な追加課題 24
  MMSEの施行順序と教示内容例 26

3 画像と症候学  福原竜治 30
  大脳の領域とその機能 30
  認知症の行動・心理症状(BPSD)と脳画像 32
  123I-MIBG心筋シンチグラフィ 33
  ドパミントランスポーターシンチグラフィ 33

第Ⅱ章  認知症をきたす疾患の症候学

1 アルツハイマー病の症候学  松田 実 38
  アルツハイマー病(AD)概念の変遷と症候学 38
  AD診断における基本的な注意点 40
  ADにおける全体的行動の特徴や診察上の注意点 40
  要素的な認知機能障害 42
  行動・心理症状(BPSD) 44
  高齢者ADと非定型ADについて 45

2 血管性認知症の症候学  森 悦朗 48
  血管性認知症(VaD)の基本的なタイプとそれらの症候 49
  血管性病変をもつ認知症患者 54
  脳微小出血(CMBs)と脳アミロイド血管症(CAA) 54

3 レビー小体型認知症の症候学  池田真優子,橋本 衛 57
  認知機能障害 57
  レビー小体型認知症(DLB)の精神症状 60
  レビー小体型認知症(DLB)の神経症候 62
  Prodromal DLB 63

4 前頭側頭葉変性症の症候学  池田 学 65
  行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)にみられる特徴と鑑別診断 66
  意味性認知症(SD)にみられる特徴と鑑別診断 70
  進行性非流暢性失語(PNFA)にみられる特徴と鑑別診断 72
  治療とケア 72

5 大脳皮質基底核変性症と進行性核上性麻痺の症候学  下村辰雄 78
  大脳皮質基底核変性症(CBD) 78
  進行性核上性麻痺(PSP) 80

6 正常圧水頭症と慢性硬膜下血腫の症候学  數井裕光 86
  特発性正常圧水頭症(iNPH) 86
  慢性硬膜下血腫(CSDH) 89

第Ⅲ章  症候学 各論

1 せん妄  西 晃,船山道隆 94
  せん妄の概説 94
  せん妄の診察ツール 95
  せん妄の予防・治療 96

2 うつとアパシー  水上勝義,佐藤晋爾 98
  認知症に合併するうつ状態と老年期うつ病 98
  認知症の前駆段階でみられるうつ状態 99
  うつ病性仮性認知症 100
  認知症のうつ状態 100
  アパシーとうつ状態 101
  アパシーへの対応 102

3 注意障害  平山和美 105
  行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD) 107
  大脳皮質基底核症候群(CBD) 108
  アルツハイマー病(AD) 108
  レビー小体型認知症(DLB) 109

4 遂行機能障害  穴水幸子 111
  遂行機能障害の定義 111
  遂行機能障害の検査法 112
  行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)の診断における遂行機能障害について 113
  認知症の行動・心理症状(BPSD)の家族介護者の態度との関連 114

5 記憶障害  三村 悠,三村  將 116
  記憶とは 116
  認知症における記憶障害 118

6 幻覚  長濱康弘 121
  幻覚の定義,種類 121
  認知症,器質性精神障害と幻覚 121
  主要な認知症疾患と幻覚 121
  その他の高齢者疾患と幻覚 124
  認知症における幻覚の発症機序 125
  幻覚の治療 126

7 妄想  鐘本英輝 130
  妄想とは 130
  認知症でよくみられる妄想 130
  各認知症疾患でみられる妄想 132
  認知症における妄想の治療 133

8 常同・強迫行動  繁信和恵 137
  前頭側頭型認知症(FTD) 138
  ハンチントン病(HD) 139
  パーキンソン病(PD) 140
  進行性核上性麻痺(PSP) 140
  自閉スペクトラム症(ASD) 140

9 食行動異常  品川俊一郎 142
  認知症患者における食行動 142
  食行動異常の症候学 143
  アルツハイマー病(AD)における食行動異常 144
  前頭側頭型認知症(FTD)における食行動異常 145
  レビー小体型認知症(DLB)における食行動異常 146

10 睡眠関連症状  足立浩祥,立花直子 152
  認知症の鑑別診断に役立つ睡眠関連症状 153
  認知症患者や家族のQOLに影響する睡眠関連症状 154
  知っておきたい一次性睡眠関連疾患の睡眠関連症状 155

11 失語および関連言語症状  大槻美佳 158
  言語症状を診る基本ポイント―要素的言語症候と関連する症候― 159
  進行性失語の診断ポイント 165
  認知症性疾患と失語症の関係 170

12 失行症(行為・動作の障害)  中川賀嗣 174
  失行の前提要件(鑑別症候) 174
  古典的失行のここでの表記法 175
  狭義の失行とその基本的な評価法 176
  非失行性の行為・動作障害との鑑別 178
  他人の手(症候群)について 181

13 相貌認知障害と鏡現象  小森憲治郎 184
  既知の相貌認知の障害(相貌失認) 184
  相貌の意味記憶障害(人物特異的意味記憶障害) 185
  鏡現象 187

第Ⅳ章  症候学から生活支援へ

1 自動車運転  上村直人,中山愛梨,藤戸良子 192
  増加する高齢ドライバーと交通事故との関連性 192
  道路交通法の変遷と把握しておくべき最新の関連法 193
  臨床場面における具体的対応と生活指導 195
  運転行動・運転能力と認知症との関連性 196

2 症候学から認知症の人を理解する―在宅支援を中心に―  鈴木麻希 201
  認知症診断と支援 202
  認知症の原因疾患別の対応法(環境調整) 202
  認知症支援における多職種連携と地域連携 204
  オンラインを用いた遠隔支援 206

COLUMN 1 認知症に対する薬物療法up to date  岩田 淳 19
COLUMN 2 認知症におけるPET画像診断up to date  石井一成 35
COLUMN 3 右側頭葉優位型の前頭側頭型認知症について  佐藤俊介 76
COLUMN 4 認知症と口腔機能―歯科との連携―  眞鍋雄太 149
COLUMN 5 認知症と感染症(主にCOVID-19に関して)  牧 徳彦 208
COLUMN 6 介護保険制度と診断後支援  谷向 知,柴 珠実 212